―――  NBSAネットニュース 2006年5月号 ――――

 

ネパールの視覚障害者を支える会(NBSA)の会員 支援者の皆様

 

皆さんすでにご存知と思いますが  今年の4月は ネパール近代史上大きな転換期を迎えました  そしてギャネンドラ国王の親政から民政復帰したネパールの下院は5月18日 国王の大権を剥奪(はくだつ)する議会宣言を満場一致で採択し 本日5月19日は祝日となり カトマンドゥは戦勝ムードで沸き立っているようです 

 

事の経過は次回の会報誌などでお知らせさせていただくとして ネットニュースでは外出禁止令のさなかその場にいた 数人の人に聞いた話をお伝えします

 

● 国王の直接統治への 大規模な抗議行動が行われた初日 あなたはどこにいましたか?

ほとんどの人が自宅にいました  数人の人は路上に出ていました

 

● 午後に外出禁止令が出されることを その日 知っていましたか?

たぶん全員が知っていたようです デモになることを知っていたのですが 禁止令は不正な行為だと感じた人が多かったようです

 

● その後約20日に及ぶ抗議行動や外出禁止令が発令されましたが どんな問題が生じましたか?

抗議行動は正しいことだと確信していたが 恐怖は感じた  デモ隊には恐怖は感じなかったのですが 銃器を持った国王の軍隊が いつどこで発砲するか分からないほど 無分別な発砲を繰り返していましたので  デモの参加者は別でしょうが 一般のカトマンドゥ市民は誰もが神経質になっていました  そしてなぜか悲しかった  一番困ったことは 外出禁止令が出ていた間 カトマンドゥ盆地に食料などの物資が運ばれて来なくなったことです  自家栽培の青菜なども底がつき 乳幼児のいる家庭では乳製品の不足が深刻な問題になりました  しかし日を追うにつけ いまここで我慢しなければ2度と訪れるチャンスではない とはっきり自覚して誰もが耐える気になってきました  外出禁止令の間は救急車やバスの運行も禁止されていたので 外には歩いてやってきた患者が病院の前で長蛇の列を作っていました  この現状に対して国立病院の医師団が真っ先に 外出禁止令に反対しました  無論 緊急医療体制はとられていたので 手術や出産は行われたのが幸いです  また弁護士連合 人権団体 ジャーナリストは連日のように抗議行動を行い 多くが逮捕されました

 

● 他にどんな人が抗議行動に参加したのですか?

市民であればだれでも参加したがっていたようです  でもどこにも属していないので怖い気もしました特に政府の高官 警察官の家族が外出禁止令を破って路上で抗議の声を上げました  また多数の障がい者団体も参加しました  全国障がい者連合を始め 視覚障がい者分野では 最大手のネパール盲人協会 盲人福祉協会 それにNBSAからも個人として あるときは団体として この抗議行動に参加しました  NBSAカトマンドゥ支部長のオムさんは ラジオのアナウンサーでもあるので 自宅から毎日歩いてラジオ局に勤務していましたし 経理担当者はスネにキズを負い いまだ完治していません  

またデモに参加しなくても 一般市民の寄付金がすごく集まりました  全財産を投げ打った人までいました  

 

● 実際どのくらいの人々が犠牲になったのですか?

外出禁止令最中の禁忌のデモに参加したのは 全国最大で60万人と言われています  カトマンドゥだけでも最大で20万人規模だったことでしょう  命を落とした人は21名ですが 重態の人もいるので まだ増えるかもしれません  というのは膨大な数の行方不明者が未だにいるのです 500人以上は激しく負傷しています

 

● そんなに犠牲を出して あなたたちは何を勝ち取りたかったのですか?

1.ネパール総国民を含んだ民主主義の実現

2.国民の政治参加権と王政の廃止

3.国民のための政治つまり共和制

*話を聞いたのは20-30代の普段ノンポリタイプの人々ですが これらの言葉が本当にスラスラと感情を込めて話せるのには驚きました また大多数の人はもう国王はいらない と思っているとのことですが

 

● 実際に国王が政治権力を手放してから 本日までに何が変わりましたか?

 

1.ネパール国王軍 (Nepal Royal Army)が ネパール国軍(Nepal National Army)に変りました

2.国王政府(His Majesty of Government)がネパール政府に変りました  それと共にネパール王国大使館なども ネパール大使館に変りました

3.ネパールの憲法では国教をヒンドゥー教と定めていたのですが これが削除されます

その他もろもろの変更がありました

 

● しかし国王や特権階級だった人々 特に軍人はこれに反発すると思えませんか?

巻き返しを図ろうとする勢力があるかも知れませが 私たちは今団結の重要性を知りましたから大丈夫  そんなことがあればまた戦うだけです  現に王室が大きな利益を得ていた一流ホテル タバコ会社などの企業が反国王側になりました

(うーん 本当に楽観的でちょっと不安ですが)

 

● 最後にあなたたちは 今後 新政府に何を望みますか?

マオイスト派は抗議行動の間中 常に紳士的に市民運動をサポートしてくれました  ネパール政府は今からマオイスト派を テロリスト集団と呼ぶのを止めました  アメリカがこれを容認してくれるよう切に望みます  我々が今一番ほしいものは恒久的平和なのです

 

● しかし新政府の重職につきそうな人々の多くは高位カーストで 下層階級の支持が多いマオイスト派 いわば 草の根タイプとどこか路線が違うのではないでしょうか?

大丈夫です  我々は同じネパール人です  きっと和解できるでしょう

日本の皆さん またネパールに来てください 観光客が減ることがネパールにとって一番の打撃なのです  

 

などなど活発な意見が聞けました

 

実際に何かが変っていた;

 

私(渥美よりこ)は5月18日にネパールに戻ったのですが ネパール国営テレビのニュースがガラリと変わっていました  これまで政治を語ることや 国王に関する非難は声をひそめてしていた人までも 今では堂々と自分の意見をもって語り始めたことです  今回の運動で犠牲になった人々は カトマンドゥ市中央にある犠牲者の記念碑に加えられるそうです  話を聞いたある人は 今回の犠牲者は21名でとどまったが それがたとえ2100人であっても 我々は戦うことをやめなかったでしょう と誇らしげに言っていました  今後ネパールはどこへ流れて行くのか あるいは流されていくのか 皆目見当がつきませんが 今現在 持ち前のネパール人らしいおおらかさは 大雨の降った後に射す太陽のように すがすがしい輝きに満ちています

(報告 渥美よりこ カトマンドゥ在中 2006年5月20日)

 

● ネパールの民話(4) 賢い娘

 

今回は老人問題です  私を含めちょっと耳の痛い人もいるのではないでしょうか

 

むかしむかし あるおじいさんに4人の息子とひとりの娘がいました  

娘は結婚して遠く離れたところに住んでいましたが 息子たちはみな嫁をもらい おじいさんといっしょに暮らしていました  あるとき娘が実家を訪ねてきました  

「ねぇ お父さん  兄弟のお嫁さんはよくしてくれている?」

とおじいさんにききました  

「わしも年をとったもんだよ」

とおじいさんは話し始めました  

「わしの世話をみてくれる嫁なんかひとりもおらんよ  わしになにか期待するときだけめんどうをみてくれるだけじゃ」

娘はおじいさんの境遇を知り 悲しくなりました  

「お父さん  なんて悲しいことを言うの わたしができるだけお父さんを見に来るわ  でも私はお父さんと遠く離れて暮らしているでしょう  何とかできないかしら」

娘にいい考えが浮かびました  

「そうだわ  お父さん 私の金のクサリをあげます  そしてお嫁さんに言いなさい  私を一番よく世話をしてくれた嫁に このクサリをあげると」

 

いうまでもなく嫁たちは義父の金のクサリに気が付きました  

「ねえおじいさん そのクサリどうするの?」

「ああ これかい 私の世話をよくしてくれる嫁にやろうと思ってさ」

と云うと 誰もがクサリが欲しいので 競っておじいさんのめんどうを見るようになりました  

 

その後おじいさんはもっと年をとり いよいよお迎えのときが近づいたことを知りました  おじいさんは娘にもらった金のクサリを 庭のすみの薪の下に隠しました  

遠くへ嫁に行った娘が 再び父を訪れたときは すでにおじいさんは死んでいました  

そこで彼女は義理の姉妹にたずねました 

「私の父は私に最後に何か言っていませんでしたか」と  

「はいはい あれね  義父さんはあなたが実家を訪ねたら 薪は格別にいいもんだ と伝えてくれ と言っていました」

これを聞いて娘は庭へ行き 薪を押しのけて 金のクサリを再び手に入れることができたということです  

 

     現地活動報告

上記のような国家的変動で 思うように活動できなかったカトマンドゥ支部のようですが 定番の月間カセットテープ・ライフラリーは 遅ればせながらも発行できたようでホッとしています

また4月15日と23日のNBSA総会並びに講演会には多数の方が参加  講演内容は NBSA現地活動報告 JICAシニアボランティアとして3年間ネパールの社協に勤務して ネパールの障がい者の現状 と やや固めでしたが かなり熱心に講演を聴いてくださりました  これらの会に多大なご尽力を賜った皆様に 重ね々熱く御礼申し上げます

 

編集と文責 渥美よりこ カトマンドゥ在住

 

本会の活動やスタディーツァー情報などを載せた NBSAホームページ:http://at.sakura.ne.jp/~ilte/nbsa/ は最新版の会報誌を更新しています  ぜひご覧ください

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