――― NBSAネットニュース 2007年7月号 ――――

 

 

 

ネパールの視覚障害者を支える会(NBSA)の会員 支援者の皆様

 

 

 

今年のネパールはやや雨が少ないようですが 田畑の緑がいっそう美しくなりました  皆様はいかがお過ごしですか  雨脚が激しいと事務所へ来所する人がぐっと減ります  ネパールに来た人なら容易に想像がつくと思いますが あの劣悪な道を 片手に白杖 片手に傘をさしてくるのです  事務所に超大型の傘を2本置きました  私たちができるほんの小さな気配り  雨季に入ってからはバス停への送迎を心がけています  さて 会報誌でお知らせした 10代の盲目の若手シンガー 木下航志のチャリティーコンサートが8月21日 カトマンドゥの日本大使館で行われます  観覧ご希望の方は直接カトマンドゥのNBSAにメールでご連絡ください  場所等ご説明いたします  

 

 yoriko@mos.com.np  または yorikonepal@hotmail.com  

 

 

 

●活動報告 サービスステーション ダベリングステーション

 

昨年から懸案になっていた カセットテープ ライブラリーの貸し出しと返却のサービスステーションの開設を見合わせることにしました  私たちは張り切っていたのですが 思いのほかユーザーが反対したのです  NBSAの良さは めんどくさくても事務所まで足を運んで 友達やボランティアとおしゃべりしたり 午後のお茶を飲んだり 新聞や雑誌を読んでもらう楽しみがあること  こちらは気を利かせたつもりだったサービスステーションの開設は カセットテープのやり取りだけで まったく面白くない との意見なのです   バスを2度も乗り換え 交通費を払っても事務所に来たい という人の方が多かったのはうれしいことです  なんだか日本の町内会や碁会所 あるいはデイケアセンターのような雰囲気のある事務所ですが 外出の機会が少ないネパールの視覚障がい者が実によく訪問します  あまり長居をされると仕事が滞るので さりげなく帰ってもらうよう 先日事務所に大時計を設置しました これは1時間ごとにチャイムが鳴る  これでも効果が上がらないときは ホウキに手ぬぐいでも巻いてみましょうか

 

 

 

●動物和名にめずらしくない差別用語 

 

今回は障がい者に関連する差別的表現の改訂にずいぶん苦労したという動物学者に寄稿してもらいました

 

メクラウナギ メクラグモ メクラカメムシ メクラゲンゴロウ等  こうした差別用語を含む動物の和名は意外に多く 動物名だけではなく 植物にも存在します  しかも 今世紀になってようやく本格的な改称へ向けたうごきが始まったばかりで 依然 そのまま使われている名称も少なくありません  上にあげた動物和名は視覚障がいにかかわるものですが この他にもオシザメ イザリウオ バカガイ セムシバエ等々 さまざまな例があります  

 

わたしは 海外ボランティアとしてネパールに2年ほど滞在していました  この間 ネパール語にも差別用語があって それらを使わないよう啓蒙する活動が 障がい者支援団体等によって推進されていることを知りました  一方で まがりなりにも先進国といわれる日本において 上記のような名称が21世紀になるまで放ったらかしにされ あるいは未だにまかりとおっている実情には 首をかしげざるをえません  

 

明らかな差別用語が含まれていても 生物和名を改称するのは実は簡単ではありません  ある意味 学界の権威主義的な構造が 悪弊になっているといえます  固陋な大御所が「伝統的に慣用されてきた和名を改称すべきではない」と主張すれば 大抵の場合 そこで頓挫してしまうのです  ほとんど一党独裁化したどこぞの政治体制とよく似ています  

 

 差別用語を含む和名が具体的に変えられはじめたのは 「メクラカメムシ」が「カスミカメムシ」に改められた頃からで これもわずか7年前の耳新しい話です  この改称にせよ万人の賛同が得られたわけではなく 暗に非難する学者も少なくありませんでした  

 

もとより 差別用語を好んで使うひとなどいるはずはないと信じていますが たとえひとりでも不快な思いを抱く人がいるとすれば 早急に対応するのが先進国のあり方でしょう  差別用語の継続的使用が「伝統を守る」ことになるなら 日本の伝統自体が身の毛のよだつようなものになりかねません  物質文明ばかり爛熟させた日本という国が 途上国といわれる国々を形而上的な成熟度でも凌駕しているかといえば どうやらそうでもなさそうです  元JICAシニア海外ボランティア 笑龍軒

 

 

 

●ネパール関連ニュース

 

ネパール憲法制定議会選挙 11月22日に実施  6月24日毎日新聞

ネパール政府は24日同国の今後の政治体制を決定する憲法制定議会選挙を11月22日に実施することを決定  マハラ情報通信相はこの日に実施すると約束し再び延期されることはないだろうと述べた  当初は6月が予定されていた

 

 

 

カスキ郡ポカラ市の盲学生 SLCに全員合格 7月7日 Kathmandu Post

 

中等教育終了及び大学入学資格を証明する国家試験SLCが今年も実施され 視力に障がいのある学生も多く受験したが ポカラの統合学校の学生9名全員が優秀な成績で合格した 

 

 

 

国王誕生日とラトマチンドラナート祭 7月8日 Kathmandu Post

 

7日王室は国王の60歳を祝う特別式典を派手に行う計画であったが 前夜の晩餐会を欧米諸国 インド パキスタン等 大使が欠席を表明したため 日本 中国などの外交官もこれに追随した  王室は1千人に招待状を送ったが 出席者は125人に留まった  翌日の国王の一般参賀は1万5千人を予定していたが こちらもかなり少なかった  さらに8日 国王を主賓に迎えて行う 国家的行事の雨乞いの儀式 ラト マチンドラナート祭の席からはずされ 国家の最高責任者として首相が招待された

 

 

 

バグルン郡で地滑りで 26名死亡  7月13日 Kathmandu Post

 

突然に襲った集中豪雨により 26名死亡 17名が負傷 家屋の損害多数  ネパール軍

 

隊及びネパール警察官が救援に駆けつけたが 連続的な豪雨で救出作業がかなり遅れた模様  

 

 

 

●カトマンドゥ盆地3都物語 最終回 カトマンドゥ編 

 

ネパールの商都 カトマンドゥは別名 栄光の都 カンティプルとも呼ばれる  先に紹介した バクタプル パタンを含むカトマンドゥ盆地は 古くからチベットと北インドを結ぶ重要な交易の中継地点であった  そこでカトマンドゥは様々な民族 宗教の交差する土地である  世界一大きな仏塔 ボーダナートや カトマンドゥがまだ湖にあった頃にすでに存在していたと言われる 仏塔 スワヤンブナートそれにインド亜大陸にある4大シバ神 ヒンドゥー教の寺院 パシュパティナートの他 ネワール民族が古くから信仰する生き神クマリが住むクマリの館 参照NBSA会報17号 など宗教的な由来を持つ名所が多い  しかし カトマンドゥは街全体があまりにゴチャゴチャしているので うっかり行き過ぎてしまうことも多々ある  カトマンドゥには人の数ほど神様がいると言われているが 今は人の数のほうが多いと思われるほど 人口密度が過剰になった  

 

重要な観光名所は上記4箇所であるが 時間がなくて人間ウォッチングに的を絞るなら旧王宮広場の建造物とネワール彫刻が美しいクマリの館に尽きるだろう  一国の首都とは言えないほど区画整理がなされていず 迷子になることもしばしばある  しかし 新旧渾然とした町並みを対比しながら歩くのも面白い  旧王宮広場をタメルに向かって北上して歩くと 辻々に様々な露店が見られ ありとあらゆる日用雑貨 食品や生鮮野菜が並んでいるバザールに行き当たる  インドの衣類 中国のサンダル 婦人物のバッグを20も30も頭や腕に巻きつけ練り歩く移動店舗の商人 素焼きの杯や植木鉢を路上にうず高く重ねた店 小さい路地に入るといきなり牛が出てくることもあり  慣れない人には異次元世界に迷い込んだように感じられると思う  年配の人々には このカオスを極めた町並みが戦後の日本を彷彿させ なんとも懐かしい気がするそうだ  

 

その反面 現在の王宮付近のダルバールマルグには高級ホテル ブティック ファミレス 若者がたむろする カフェなどが立ち並ぶ  田舎臭さはいなめないが明らかに欧米のファッションを意識したいでたちの人々が ごく自然に往来を行きかっている  新旧 光と影を混入したカトマンドゥは いま世代の格差に直面している  

 

最後に旅行者のメッカ タメルを紹介したい  タメルはまさに無国籍 無政府の租界ともいえる場所で 庶民の匂いがない  タメルで働く人々が利用する 茶屋や雑貨屋の店員すら なんとなくラフな雰囲気が漂う  ところがこの開放感あふれるタメルは 退廃的であるがゆえにかなり面白いのだ  また いかにもが外国人にウケそうな 様々な工芸品から外国のブランドを模写した衣類 登山用品など 土産物屋が充実している  思い切りショッピングに走るのも面白い  タメルもまたゴチャゴチャで こうした怪しい活気は古今東西 どんな国の人にもウケがよく一度立ち寄るとよい  

 

3回にわたって紹介した3都市の名所は 13〜18世紀まで続いたマッラ王朝の遺物が中心で 文化の担い手は主にネワール族であった  カトマンドゥは隣の町パタンのような荘厳さに欠けるが 新旧交代の胎動を感じさせる街であり そこに住むネワールの住民たちの間でさえ 他都市との温度差が生じている  今後のネパールの行方を知る者は 占星術師のみ  そして盆地内何処においても 冬場 視界の開ける広場や高台にから 世の営みに無頓着に鎮座する ヒマラヤの山々が見渡せる

 

 

 

●ネパールの民話 19 王女とキツネ  

 

今回は長編ですが 夢のように可愛らしい物語です  最後まで読んでください  

 

むかし昔 バクタプルにグナカマ デヴァという名前の王がいました この王はとても賢く謙虚で 正義感にあふれ そして慈悲深かったので国民は王を父と慕っていました  その王にはグナラクシュミという娘がいました  かつて一度 幼かった娘があまり泣き止まないので 王は娘にキツネと結婚させると言ったことがありました  時を経て グナラクシュミはとても美しい王女になりました  ある夜 グナラクシュミの夢枕に ナーラーヤン神が現れました  神はお前と結婚するためにもうすぐそっちへ行く と伝えました  

 

次の朝早く 神は白いキツネに変身しお供を従えて宮殿に行きました  一行は王が起きてくるまで 長いこと大声で吼え続けました  王は心配になり 宮廷の占星術師を呼んでこれはいったいどうしたことか と尋ねました  占星術師は 特に悪い兆候ではないと王に進言しました  そこで王は白いキツネを呼んで なぜ王宮にきたかと尋ねました  

 

「王様 もしあなたが男の中の男だったら 数年前に娘を嫁にくれてやるという約束を忘れたわけではないはず  もしあなたが 本物の王者でなければ それはそれでしかたないが」

 

とキツネが答えました  

 

「なんと 結婚の申し込みに来たと申すのか」

 

と王は叫びました  

 

「君は 人間とキツネが結婚できると本気で思っているのかね」  

 

するとキツネはこう言いました  

 

「別に奇妙なことじゃないですよ ご自分で姫にキツネと結婚させると言ったじゃないですか  私はあなたの言葉をちゃんと聞きましたよ」

 

王は娘がほんの子どもだった頃に どうにも泣き止まないので 冗談でキツネに嫁がせる と言ったことを思い出しました  今になってキツネが娘の姫に結婚を申し込みに来ているのです  王は途方にくれ妃の部屋に行きましたが 妃もどうしてよいのかわかりません  王女のグナラクシュミは両親の苦境を知り 何がそんなに悲しいのか尋ねました  そこで両親は白いキツネが来たわけを告げました  すると王女はこう言いました  

 

「お父様 お母様どうぞ悲しまないでくださいませ  私は夢でことの成り行きすべてを見ました  お父様は名誉を重んじる方です  どうぞ約束を守ってください  何の憂いもありません  私は白いキツネを夫といたしましょう  今日 白いキツネと結婚させてください」

 

王 妃共に悲哀にうちひしがれていましたが 聡明な娘に励まされて気を取り直しました  

 

大臣が招集され 結婚式に必要な準備にかかるようご命令がくだり 結婚の公式発表も行われました  まもなくすべての支度が整い宮廷の中庭に音楽が流れました  やがて 司祭も到着し大観衆が見守る中 壮麗な結婚式が行われました  こうして王女のグナラクシュミは その日のうちに白いキツネに嫁ぎました  婚礼の後 白いキツネと王女は王と妃にいとまを告げ4匹のキツネがひく大きな車に乗り その後ろにたくさんの嫁入り道具と持参金を運ぶ大勢のお供が続きました  

 

 

 

キツネの一行は森を分け入り やがてある洞穴に着きました  お供の者たちもこれに従いました なんと 洞穴の中には宝石や金で作られた巨大な宮殿があるではありませんか  さらにもっと驚いたことに 白いキツネはナーラーヤン神に変身し 神は荘厳な玉座に王女を共に座らせました  天界の神々が新しいカップルを祝福しに到着しました  神々は神聖な火を灯し 聖歌を詠唱し 再び宗教的な結婚の儀式を行いました  その後 祭式は豪華な祝宴に移りました  王女に従って付いてきたお供の者たちには 黄金のお盆にのせられた料理が振る舞われ 望むだけ家に持って帰るように伝えられました  祝宴の後 お供の者たちは家に送り返されました  お供の者たちは バクタプルに戻り王と妃に見てきたことをありのままに話し ふたりを安心させたそうな めでたし めでたし

 

 

 

編集と文責 渥美よりこ カトマンドゥ在住

 

2007年7月16日

 

 

 

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